2022年最後の日に最高の漫画こと『プラネット・ウィズ』を読みました
ほぉ、無料。
ということで、プラネット・ウィズ読みました。
・BIGみそかの出会い
12/31の24時間限定で画報社の漫画作品が無料になってまして
『惑星のさみだれ』
『プラネット・ウィズ』
などの画報社における水上悟志作品が無料公開されてました。
私はさみだれ、スピサ、戦国妖狐、ソルテ(連載中)、その他短編など水上作品は色々追ってましたが、プラネット・ウィズだけは未読未視聴でした。
ネームからアニメになって、そこから原作者自らコミカライズしてることは知ってるけど、どうにも縁がなく…って感じでしたが、ついに縁が結ばれたというか。
読むタイミングをこれまで逃していたというか、他にやることが多かったりしたんですよね。でも今は手も空いてるし時間もある。
深夜ニ時に無料公開を知って、おそらくこの機会を逃したら次いつになるか分からないぞとすぐに読み始めました。
結果、ニ時間かけて読了。感想をしたためます。
・私と水上悟志とプラネット・ウィズ
私は水上悟志先生を『面白い漫画しか描けない漫画家』と思っていました。
これからは『面白いアニメの原作もしてしまう、面白い漫画しか描けない漫画家』と思うようにします。
プラネット・ウィズという作品に出会えてよかった。無料で読んでしまうのは申し訳ない、強く思いました。なので全巻買いました。
便利ですね、漫画全巻ドットコム。届くのは帰省から戻ったタイミングになりますけど。
プラネット・ウィズは私が元々ある程度水上作品に触れていたからこそ、受け取れるものがあったと思います。免疫系における受容体ができている感じですね。
プラネット・ウィズがどんな漫画かというと、SFロボットものなのですが
・地球へ変な巨体オブジェ型が攻めてきたぞ!
・その巨大オブジェを倒すために7人の戦士が巨大ゴーレムに乗って倒すぞ!
・主人公は地球を守る7人の戦士をぶっ倒して力を奪うことが目的!
という、王道作品に一捻り二捻りが加わったスタートをする、言ってしまえばちょっと変な漫画です。
謎の巨大オブジェが地球に来襲!(プラネット・ウィズ第一話/少年画報社)
立ち向かう7人の戦士と『ヒーローを倒せ』と言われる主人公!(プラネット・ウィズ第1話/少年画報社)
この捻りまくって読者を引き込むデスロールのような手つきは水上作品の味。
ワニは獲物に噛みつき回転する技デスロールで肉を捻じ切る(フリー素材のワニ)
序盤は変なスタートよろしく謎、謎、謎の連続。
主人公の目的は? 7人の力の原理は? どうして巨大オブジェは地球に?
ここら辺はアニメとして、12話全部放送することが決まってる故の立ち上がりだと感じました。アニメは打ち切りとかありませんからね。(散人大好きです)
でもここら辺の謎をばら撒きつつも退屈せず、異常なまでの魅力的な牽引力で読者を離れさせないのは水上先生の技量エグいというか。
あと序盤のキャラの掛け合いとか、人間関係の構築とかキャラの構築とか、多くの謎を引っ張りつつも一つ一つ丁寧に回答していく流れとかはこれまでの水上作品っぽさが十全に出てて
『うわ! 水上だ!!』
となりました。
本当に、めちゃくちゃ集大成っぽい。これは最果てのソルテ(連載中)がもしもなかったらプラネット・ウィズで漫画家を勇退するのか?と思うレベルで集大成。
じゃあこれまでの水上作品にあった要素をかき集めたような漫画なのか?、と言われればNOを突きつけざるを得ない。
これまでの水上先生の味はするけれども、新しい水上先生の味も生まれてる作品。
新しくて懐かしいって感じです。HGSSか?
私は惑星のさみだれから水上作品を読み始めたけど、プラネット・ウィズから入るのも良いかも。水上エキスがたっぷり詰まってる。
・プラネットウィズの内容を語らせてほしい、ネタバレありで
話の展開や内容、帰着に水上悟志作品の全部が詰まっているように思えました。
水上作品の読者ならわかっていただけると思うんですけど、水上悟志先生の作家性って、SFを根底に作中の科学理論や神の存在を絶対的としつつ、人類の意志は上回るってやつだと思うんすよね。
世界のルールは想いの強さが捻じ曲げる。
愛は世界を救うし、好きな女子のために地球を守るし、好きな男の子が化け物でも生涯添い遂げるし、想いの強さが前世を乗り越える。
大人になると小っ恥ずかしいような王道で、熱くて涙がこぼれそうな、真っ直ぐすぎる清々しさを描く作家。それが水上悟志先生だと思ってます。
プラネット・ウィズはそれが盛りだくさんでした。
あと基本的に水上作品はハードだけど優しい世界というか、キャラのほとんどが善人であるようにも私は思うんですよね。
フルトゥナ(スピサ)も世界を滅ぼそうとしたけれど、彼なりの善意でイーストと共に生きようとしていましたし。己の悪行に無自覚であるだけで。めちゃくちゃ悪いな?
彼は自信が道を踏み外したことに自覚的ではあった(スピリットサークル38輪目/少年画報社)
水上作品の根底に性善説があると思ってます。
プラネット・ウィズも例に漏れず、世界を思いと愛で変えていくシナリオだったと思います。
主人公の黒井宋矢(ここまで主人公の名前を書いてなかった)は実は地球人そっくりな宇宙人で、かつて故郷の星を龍に丸ごと滅ぼされた過去を持ちます。
結構アッサリと明かされる宗矢の宇宙人事情(プラネット・ウィズ第13話/少年画報社)
そのため龍と、龍の力を使う存在に激しい怒りを抱いており、宋矢の目的が『故郷を滅ぼした存在への復讐』なんだけど、復讐を軸に動くのは中盤まで。
それ以降は復讐よりも自分が守りたい人を守りたいから戦うって個人的で独善的な、めちゃくちゃカッコいい姿を見せてくれるんですよね。世界を守りたいわけじゃない、守りたい場所と守りたい人が偶然世界にいただけ。
中盤一番の見所に、世界の人々の意思が封印される場面があります。人類がこれ以上進化して害をなす存在にならないよう、宇宙人が進化したい意思を封じ込め、地球を停滞させます。
人々は自分の望みが叶った夢に閉じ込められます。
飼ってた犬や猫が生きている。
息子や恋人と一緒に居られてる。
酒池肉林を謳歌する。
夢が叶った未来にいる。
俗っぽい願いも、絶対に叶わない望みもある世界(プラネット・ウィズ第30話/少年画報社)
そんな誰しもが持つ普遍的で素晴らしい夢に世界人類みんなが閉じ込められます。
宋矢は夢に閉じ込められた世界中の人々に向けて目覚めるように呼びかけるのですが、その時の言葉が『夢にとらわれるな』でも、『現実を見ろ』でもなく。
「目覚めたいという人は手を上げてくれ」
(プラネット・ウィズ第30話/少年画報社)
「俺だって無くなった故郷の夢を見たら目覚めたくないと思う」
「本当に現実に戻りたい人だけ、手を」
(プラネット・ウィズ第30話/少年画報社)
どこまでも優しく、どこまでも寄り添うような言葉でした。
幸せな夢に囚われる展開がある作品はかなり多いけれど、ここまで『目覚めてほしい、だけれど目覚めなくてもいい』と断言した作品に僕は初めて出会い、12月31日の深夜3時に衝撃を受けました。
このまま最後の方まで人類の2割くらいは目覚めない作品他にある? あったら教えてください、読みます。
だけれど、目覚めなくていいとある種の大義名分や許しがあったからこそ、目覚めた人たちの意思や思いがより強く輝くのだと感じます。
人々のセリフだけでどんな夢を見たかを察せさせる水上デスロール(プラネット・ウィズ第30話/少年画報社)
人が想う強さを肯定しつつも、弱さを否定しない。そんな不器用な暖かさに包まれました。
それに水上作品の読者ならよくご存じだと思うんですけど、水上先生ってなんでもない様な描写に伏線を仕込んだりするのがめちゃくちゃ上手いんですよね。この甘い夢よりも現実を選ぶことの布石や匂わせも事前にされててめちゃくちゃ上手いと思いました。
布石の内容はおっぱいなんですけど。いやマジでおっぱいなんですよ。
そしてさらにプラネット・ウィズのすごいところは最終回が何度もあるところです。
龍の力を持ったやつを倒したぞ!(1回目の最終回)
人類の意思を封印するやつとの最終決戦だ!(2回目の最終回)
龍本体とのラストバトル!(3回目の最終回)
何回最終回を迎えるつもりだ?
しかしこれはオタクの誇張ではなく、作品の最終回でしか得られないような熱量をそこにぶつけておいて「なんと……まだ終わらないんですよ!」とこちらの寂しさを吹き飛ばすような次のシナリオを持ってくる。さながらすげぇライブのすげぇアンコール状態。
数回の最終回を経るに連れて、どんどん話の内容も戦力もスケールアップしていくんだけど、その後の話を知らない状態で初読したので『ここで終わるの!? どーすんの!?』って思いながらページをめくってました。
読み味としてはあらかじめポイントを決めておいて、もし打ち切りになったらそこで話を畳めばってネウロみたいな感じに近いです。アニメは打ち切りが無いって言ってたのにな。
またこれも水上作品の味なんですけど、話が進めば進むほど敵味方の境界線が曖昧になって、最後はみんなで協力するって流れが多いんですよね。
これはRPGとかポケモンとかの道中で、一見するとバランスとか変なパーティだけどこれ以外に考えられない最高のチームってやつに似ています。あの中二病がいてよかった。
宇宙人の大学生!社会人!OL!ニート!ゴスロリ!猫!犬!作者!短編集のフクロウじいさん!これがラストパーティの一部だぜ!(プラネット・ウィズ第40話/少年画報社)
個人的に短編集のまつりコネクションのドワーフがいて嬉しかったです。
こういう種族や性別や人種がバラバラでも、かつて敵対していても、一つの目的に向かって団結するシーンが大好物です。戦国妖狐だとさらに人と闇(かたわら)がどう関わっていくかを深く描いていたのでオススメです。
もしこのブログを読んでいて戦国妖狐をまだ読んでない人が居たら今すぐこのブログを閉じて戦国妖狐を読んでください。
このあたりのバラバラな人たちが一つになっていく流れも水上作品のそれでした。本当に集大成。
水上作品と言って忘れてはならない要素がさらに二つ。恋愛と伏線です。
主人公とヒロインのあまりにも真っ直ぐで健気な恋愛。
「どこから計算していたんですか?」と恐れおののく伏線回収。
その二点もこのプラネット・ウィズには盛りだくさんで満腹になります。満腹になった後もずっと口に飯を入れ続けられるんですけどね。クラッカー戦のルフィか?
これまでで一番食べて一番太ったルフィ(ONE PIECE第842話/集英社)
さっきも夢のおっぱいから現実に戻るような、一見するとギャグに見えるシーンが後々の重要な伏線になっているってのが水上先生は上手すぎるんですよね。のぞさんに白石さんの暗示が効かないことが、終盤の宋矢と一緒に戦うことを選ぶまで繋がっていることとか。
主人公が下駄で殴ったりデッケェ下駄を出すギャグが、胸熱シーンや感動シーンに繋がるって思います?
再読した時このデカい下駄を出したギャグシーンで泣きそうになった(プラネット・ウィズ第38話)
恋愛要素も宋矢とのぞさんの主人公とヒロインの甘酸っぱい恋模様だけではなく、大人同士のどうしようもない、恋と呼ぶには少し薄暗い感情劇もあって、二つのギャップにやられます。
個人的に惑星のさみだれとは指向が変わって、男女がくっついた後にラストバトルを持って来たのがまた違う読み味になってて良かったです。
作中で宋矢が述べたように、都合の良い場面でエンドロールが流れるわけでも無く、告白して両想いが判明して交際をする一大イベントも人生における句読点に過ぎず、まだまだ続くって形式を漫画に落とし込んで、さらにラストバトルの燃料にしていって、それが面白くて面白くて。
少年が大人になる、小さな世界から外に出て現実を知る、けれど現実も案外悪くないじゃん、今生きてるここが俺にとっての現実なんだし……そういった水上作品でよく取り上げられるテーマもふんだんに盛り込まれてて、SFと恋愛と熱血とジュブナイルと、漫画好きが好む要素の満漢全席。
変な漫画なのに真っ直ぐで、真っ直ぐなのにちょっと変。
そういう意味で集大成だけど新しい水上作品、新しくて懐かしいと言えます。
どうかプラネット・ウィズをもっと多くの人に読んでほしいです。
YouTubeでアニメ1話が無料配信中!!
一番好きな表紙は6巻(少年画報社)
僕が読んでてぼろ泣きしたシーンは『なんだよ、あいつ兄ちゃんだったのか』です。これまで宋矢の兄の姿を借りながらも「お前なんか兄じゃない」と言われ続けていた楽園の民が、兄弟を救うために行動していたと判明したシーン。
ここの宋矢の穏やかな顔に込められた感情を読み解きたくて、でも読み解けなくて。
私の排水溝を煮詰めてトッピングに鉱毒と排泄物、隠し味に酸性雨を加えたような有害ゴミ語彙では語れませんでした。宋矢……
・最後に
2022年読んで良かった漫画ランキングのトップに急に躍り出たプラネット・ウィズ。2022年最後の日の私の睡眠時間を激奪いしてくれてありがとう。それに尽きます。
ここまでネタバレ多めで感想を語りましたが、それでもまだ読んでない人は早めにプラネット・ウィズを読んでください。
そのために終盤の展開はあまり語らず、ネタバレにならない範囲で感想を述べてたんです。
「プラネットウィズ知らないけど感想は読むか」という特異な人がいる可能性を考慮したので。特異な人はこれから読みに行ってください。
最後に、プラネット・ウィズを描いてくださった水上悟志先生にただただ感謝を。
ありがとうございました。最果てのソルテの連載を応援しております。
金欲しさのあまりFANZAで同人販売数上位を研究の末、今まで描けなかった成人向けのネームが描けるようになった。二日間で32pと24pのネームを一気に描いて指を痛める。
— 水上悟志 (@nekogaeru) 2021年6月2日
この歳で新たなるスキルツリーの解放した代償である。
今日はもう本業(連載)の原稿は無理なので指を休ませねば…
成人向けで食ってきたいかってえとそういうわけでもないので本業の合間に時間をかけてコツコツやるしかない…ちなみに完成してもこのアカウントで宣伝するつもりはない。恥ずかしいから。お金ほしいのに宣伝は恥ずかしいとかこの矛盾をどう超えていくか
— 水上悟志 (@nekogaeru) 2021年6月2日
PS.もし別名義や別アカとかで成人向けをこっそり発表したら教えてください。
私はスピリットサークルでルンが毎回コスプレしたり全裸になるシーンが好きです。
なーんてね。冗談冗談。光の漫画家水上悟志が成人向けネーム描けるようになったとかそんなわけない。だってほら、ち〇こすら恥ずかしくて言えないっつーの。
— 水上悟志 (@nekogaeru) 2021年6月2日
そんな………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………